剣の手入れをしているとが隣にチョコンと座った。

黙ったままこちらに目線を送っていることに気が付く。
かまわない俺に対しての無言の抵抗?いやきっと別だろう――






be fond







態度が変わればクスクスと笑うだろう。
手を休めの方を見ればもはや相手の言いなりになるしかなくなりそうだ。
今を続けるしかなくて少し咳払いをした。

口元は緩みっぱなしだ。

何をするわけではない、ただ見ているだけなのに。
対抗心のようなものがあるのは教訓だろうか。
今回は中々こっちを見ようとしないバッシュをニヤニヤと監視し続けるだけ。

耐え切れず自分から行くかそれとも相手が諦めるのが先か―

結局は自分が望んだようになるのだからどっちでもいいのだが。
ただ相手がしている事の邪魔はしたくないからそれが終わるまでは、
自分からは話しかけるのはやめておこうと思った。


そう、思っていたけれど―――

許容範囲の時間を超えてしまった。









どちらともそれをしようともせずこの状況に慣れ始めたバッシュは未だ黙々と剣を磨いている。
悔しさも交えて唇を尖らせ接触を試みる。
二人掛けの狭いソファーにゴロリと横になりバッシュの膝の上に自分の頭を乗せた。

「!!!」

一瞬驚いたバッシュと目が合うがフィッと目を逸らすようには横を向いて猫のように体を丸めた。
今度こそ無言の抵抗に入る―

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」





姿勢が変わっただけの静かな部屋で今だのその作業を続ける。
本当はそっと頭を撫でてやりたいが掃除をしている汚れた手でそれはできない。
話すキッカケも作れない状況を早く終わらせたいと思った。

手持ち無沙汰なはバッシュの腰についた黄色い紐の装飾をいじり始める。

最初はただ触っていただけだが何やら指を器用に動かし編んでいるのを横目で見えた。







「・・・・・・・・ねぇ、バッシュ」

うわ言の様な声で呼ばれそれと同じ音で返事を返す。


「一緒に、、、、、お風呂入ろうか」

「―・・・・!!!?っ」


顔を下に向けるがは何の変化もなく普通だ。手すら止めていない。


「なぁんて、ね」

「・・・・・・・」

「言ってみただけ」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」




紐に施した網目を解きながらまた編み始める。
何事もなかったような態度からして本当に「面白いだろう」と思って言っただけなのか。

黙々と三つ編みをし続けるは単純な作業が妙に楽しくて夢中になる。
だから相手の言った言葉も何処か上の空の返事で返してしまったのだ。



「・・・・うん?」

「構わないぞ俺は」

「・・・・・うん」

「ならばそうしよう」

「・・・・・うん」

「聞いているのか?」

「・・・・・うん」

「一緒にお風呂に入ると、言ったんだぞ」

「うん・・・・・・・う、ん?・・・・って、、、ええっ!!!」



起き上がろうとして思いっきり相手の肘に自分の額をぶつけて悶絶。


「何を―」

「い、、、い、一大事よ!・・・っイタ、イ」


涙目になりながら体を起こし大きく息をつく


「駄目よ。。。。。私はいいけどバッシュのウソは心臓に悪い」

「何を言う。君のウソに弄ばれた俺はどうなる」

「弄んでって、、」

「それに俺はウソは言ってない」

「だからバッシュが言うと本気に聞えちゃうから」

「信じていないのか?」

「そんな事言わないでしょ?」

「言ったら君は承諾の返事をしただろう」

「した、かしら・・・?」

「ああ」

「でもねそれは」




目を泳がせる彼女を言葉で停止させる。


「ご、ごめんなさい。返事はしました。。。でも入るのはやっぱり二人じゃ狭いし」

「珍しく言い訳したな」

「な、、」

「狭くても一向に構わないが」

「なっ」

「それとも俺とは嫌か」

「そんな事ない!!た―」

「ならば問題ないな」



ただ、恥ずかしい。と続くはずの言葉は良い様に遮断され結舌した―









乳白色のお湯に顔すれすれまで浸かり目を瞑る。
向き合うように入っていたバッシュがそっと指先での頬に触れる。

「もういいぞ」


そう言われそっと目を開ける。何だか突然この状況というのが逆に―


「ちょっと恥ずかしい」

「そうか・・?」

「感覚の違いかも。それにバッシュは男の人だし」

「あ・・・」

「どうした」

「狭いでしょ」


自分は全身浸かっているのにバッシュは上半身を外に出していた。


「言ってくれれ・・・ば・・・・」


無意識に伸ばしていた手。


「――――・・・傷」


肩にできた傷。

いつもは服で見えないけれど僅かに鈍い色の傷が両肩にあった。
私の知らない彼の過去――

そのまま鎖骨をなぞりペンダントのチェーンに触れる。
彼はバルフレアとは違うからおしゃれでこれをつけている様には思えなくて。
それが表情で出てしまったのだろうかバッシュが私を呼ぶ。





「ん?」

「装飾品はあまり好きではないのか?」

「え、そんなことは」

「何もつけていないから、そう思った」

「嫌いじゃないわ。好きよ」

「そうか、ならば今度君に―」

「あ、あのね、私すぐに無くしちゃうの。だからつけないの」

「・・・・」

「無くした時、ものすごく悲しくなるから。。。だから」


小さく笑ってバッシュの掌に自分のそれを重ねる。


「でも、欲しいものあるの。言ったらくれる?」

「ああ、もちろん」

「――なら、キスして。沢山、嫌って言うぐらい」

「それは無理じゃないのか?」

「くれるって言ったのに」



手を離してその開いた掌で細いの肩を引き寄せる。
湯の熱で赤らんだ頬にそっと唇をつけ耳元で囁いてみせる。



「嫌になる事などあると思うか?」



小さく驚嘆の声を漏らし身を引こうとするをさらに引き寄せ、
今度はその柔らかい唇に強く自分の想いを流し込んでゆく。


好きだからこそ止められないんだ―